ホルムズ海峡の解放と海上運賃への影響(詳細② 運賃・サーチャージ編)

本記事は「ホルムズ海峡の解放と海上運賃への影響」シリーズの詳細編②です。詳細編①で見た燃料コストの動きが、いよいよ荷主の皆さまの支払う海上運賃にどう跳ね返るのかを解説します。結論を先に言えば、燃料が下がっても、サーチャージはすぐには外れず、運賃は別の理由で上がっている——この二つが今回のポイントです。
概要編をまだ見ていない方はこちらからどうぞ。

目次

まず確認:「解放」は「正常化」ではありません

停戦合意で海峡の開放が決まっても、それは即座の航行正常化を意味しません。仮に署名が実現してイランが開放を宣言しても、商業輸送が危機前に戻るまでには、時間を要する制約がいくつも残ります。

  • 機雷の掃海:安全な通航には掃海が必要で、所要期間は数週間から最大で半年との見方まで幅があります。
  • 港湾・製油所の修復:損傷した積出設備や製油所の復旧には時間がかかり、タンカー通航量が8割程度まで戻るのに最低でも4か月という見方もあります。
  • タンカーの再配置:喜望峰経由に振り替えていた船を中東・アジア航路に戻すには、契約変更や乗組員手配を含めて数週間単位の調整が要ります。
  • 保険・契約条件の再設定:通航が再開しても、戦争リスク保険料やWar Risk Surchargeが同時に危機前へ戻るとは限りません。

さらに今回特有の事情として、イランが海峡管理のための機関を設置し、通航ルートが「南ルート=攻撃・拿捕リスク」「北ルート=事前申請が必要で、米国の制裁に抵触するリスク」という二択になっている点があります。米財務省はこの機関を制裁の対象に指定しており、支払いや協力そのものが制裁リスクをはらみます。
米国は完全な自由航行を条件としている一方、イラン側は「サービス料」を徴収すると主張しており、双方に食い違いが見られます。海峡が地図の上で「開いた」としても、安心して自由に通れる状態とは別なのです。

実際、6月14日時点でも海峡の商業船通航量は危機前のわずか数パーセントにとどまっています。「再開」と「正常化」の間には、数か月単位の距離があるとお考えください。

サーチャージの構造を分解する

荷主が支払う海上輸送費は、ひとつの「運賃」ではなく、いくつかの層が積み重なってできています。今回の局面を理解するには、この構造を分けて見るのが近道です。

内容性格
第1層基本運賃(ベースレート)需給で動く土台部分
第2層緊急燃油サーチャージ(EBS/EFS)燃料急騰に対応する臨時の上乗せ
第3層戦争リスク・ピークシーズン割増(War Risk/PSS)地政学リスクや繁忙期の上乗せ

※EBS=Emergency Bunker Surcharge、EFS=Emergency Fuel Surcharge。船社により名称が異なります。PSS=Peak Season Surcharge(繁忙期割増)。

このうち、燃料価格と直接結びつくのが第2層のEBS/EFSです。3月以降、各船社はバンカー高騰を受けてこれを相次いで導入しました。たとえば大手のマースクは3月25日から全世界でEBSを適用し、標準的な貨物で1TEU(20フィートコンテナ1本)あたり100〜200ドル程度を課しています。長距離航路では各社とも150〜200ドル前後が中心でした。

結局サーチャージはいつ外れるのか

ここで、先ほどの3層構造を思い出してください。ひとくちにサーチャージと言っても、燃料に連動する第2層(EBS/EFS)と、戦争リスクに連動する第3層(War Risk)では、外れる条件がまったく違います。ここを分けて考えることが、今後の見通しを誤らないための鍵になります。

まず第2層の燃油サーチャージ(EBS/EFS)は、文字どおりバンカー価格に連動します。したがって、バンカーが下がれば減額・解除に向かうのが基本です。ただし、燃料価格の低下にすぐ追随するとは限りません。理由は二つあります。
ひとつは、急騰時に十分転嫁できなかった船社が、コストを回収しきるまで残す傾向があること。
もうひとつは、詳細編①で見たとおり、フジャイラの高止まりに象徴されるように、燃料の現物価格自体がまだ完全には下がっていないことです。各船社とも終了時期を明示しておらず、見直しのタイミングもバラバラなため、減額・解除は数か月遅れて、船社ごとにまだら模様で進むと見られます。

一方、第3層の戦争リスク割増(War Risk)は、燃料ではなく戦争リスク保険料に連動します。戦争リスク保険料は、危機前の船体価額の0.1〜0.25%程度から、ピーク時には1%前後(米国・イスラエル関連船はさらに高水準)まで上昇しました。そして保険料の引き下げには無事故の実績データの蓄積が必要で、その判断には年単位の時間がかかるとされます。つまり、海峡が再開しても、この第3層は長く残りやすいのです。

整理すると、燃料に連動する第2層はタイムラグを伴いつつ下がっていきますが、戦争リスクに連動する第3層は当面残ります。荷主側のチャージ支払額で見れば、中東航路以外は順次燃油サーチャージが外れていき、数か月程度で危機前の状態に戻ると考えられます。一方、中東航路を利用する場合は当面戦争リスク割増が残るため、サーチャージ全体はすぐにはゼロに戻らない、というのが実態に近い見方です。

見落とせないのは「需要主導」の運賃上昇

ここまでは燃料とサーチャージ、つまり「値下げ方向」の話でした。ところが足元では、これと逆向きの「値上げ圧力」も同時に働いています。しかもその主因は、中東そのものよりも需要にあります。

2026年6月中旬の上海発コンテナ運賃指数(SCFI)は、紛争前比で1.2倍を超える水準まで上昇しています。レーン別に見ると、ペルシャ湾向け(迂回と紅海連動の影響で突出)や南米向けが大きく伸びる一方、北欧州向けや米西岸向けも2〜6割上昇しており、運賃高は中東関連の航路だけでなく、主要航路に広く及んでいます。これは、中国発の荷動きが活発化し、米国のクリスマス商戦に向けた出荷の前倒し傾向が重なって、純粋な需要が運賃を押し上げているためです。

運賃の先物市場でも、アジア発北欧州向けは「先物がスポットを上回る=上昇継続」の見方が出ています。一方、太平洋(米西岸)向けは「スポットが先物を上回る=この上昇は長続きしない」との読みも示されており、航路によって温度差がある点は付け加えておきます。

なお、足元の運賃高には中東危機による迂回コストやサーチャージも混ざっています。停戦が本格化して迂回が解消されれば、その分は下がる方向に働きます。したがって今後の実質運賃は、「迂回解消による低下」「サーチャージの減額」「需要による上昇」の三つの綱引きで決まります。

結論:実質の支払運賃は、当面「横ばい」の可能性

これらを総合すると、見通しは次のように整理できます。
燃料コストの低下と燃油サーチャージの減額は、値下げ方向に働きます。しかし、その低下は遅れて進む一方で、需要主導の基本運賃上昇が重なります。結果として、荷主の実質的な支払運賃は、当面いまと大きくは変わらないという展開が有力なシナリオの一つです。

もっとも、これは唯一の結論ではありません。停戦が崩れて再び緊迫すればサーチャージは高止まりしますし、逆に需要が早期に一巡すれば、年後半は船腹の増加と相まって運賃が軟化する圧力もかかります。幅を持って見ておくことが大切です。

荷主の皆さまへ:これから取るべき対応

不確実性の高い局面では、見るべき指標と動き方を絞ることが有効です。

  • 燃料はバンカー価格を注視する:原油のニュースだけでなく、現物の供給状況を映すシンガポールとフジャイラのVLSFO価格を見ると、サーチャージ解除の現実味を測れます。特にフジャイラの高止まりが解消に向かうかどうかが、正常化の体温計になります。
  • サーチャージは船社横断で比較する:EBS/EFSの水準や解除のタイミングは船社ごとに差が出ています。同じ輸送でもコスト差が生まれやすい局面なので、複数船社の条件を比較し、出荷時期の調整余地も含めて検討する価値があります。
  • 「署名」報道だけで在庫を平時に戻さない:現物が届くまでにはタイムラグがあります。報道が先行しても、調達と在庫は段階的に戻す前提で組み立ててください。
  • 副資材・包装材・容器まで点検する:今回の危機では、単価の小さい副資材の調達難が完成品の出荷を止める場面がありました。主要原料だけでなく、代替品・代替サプライヤー・最低在庫日数まで確認しておくと安心です。

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ペンギンロジスティクスは、こうした市況の変化を、個々の荷主の皆さまの航路・品目・スケジュールに即して読み解き、実行可能な対応へ翻訳することを得意としています。輸送コストや調達への影響について、お気軽にご相談ください。


本記事のデータは2026年6月11〜15日時点のものです。運賃指標・サーチャージ水準は日々変動し、船社ごとに条件が異なるため、最新かつ個別の条件については各船社の案内および一次ソース(Drewry、上海航運取引所等)をご確認ください。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の取引や投資判断を推奨するものではありません。

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